マーク・ザッカーバーグが仮想通貨の採用を検討する理由

遂にマーク・ザッカーバーグが仮想通貨に興味を示すようになった。突拍子もなく感じられるが、背景からみるとそうでもない。

Facebookはそもそも金融領域に興味を示していた。もちろんレンディングではなく、主にペイメント(決済)の分野である。Facebookに限らずさまざまなソーシャルネットワーク、ゲームコミュニティのなかで「ゲーム内通貨」が作られてきた。ビットコインの最初のユーザーはサイファーパンク(活動家を兼ねる暗号学者)だが、その次のユーザーはゲーミングコミュニティである。アイテムの売買にビットコインを利用したのが始まりで、海外のビットコインコミュニティにはゲーム好きなバックグラウンドをもつ人が多い。

ゲーム内通貨はそのプラットフォームのなかでしか利用ができない。外の世界では価値がない。だが、暗号通貨は価値を交換する二者がウォレットを持っていれば、送金ができる。これはどうしようもない大差だ。

FacebookやInstagramをコマースの場にしようと試行錯誤をしてきたが、あまりうまく行かなかった。Facebookはこの2年ほどは好調な決算続けているが、その収益の殆どが広告の貢献によるものだ。

プラットフォームをコマースの場にしようとするからにはもちろん決済手段を検討するだろうし、eコマース事業者は激しい競争の中で決済手数料が収益を圧迫するから、プロプライエタリで低コストな決済手段の構築を夢見るものだ。

Facebookのコマース挑戦はオフィシャルには成功していない。だが、アジアの草の根レベルでは成功している。商品の画像と状況をテキストにしてフィードに流したり、クレイグリスト的に「これいりませんか」というのをFacebook、WhatsAppなどで繰り広げている。タイやインドネシアの若年層のなかにはソーシャルやメッセージングアプリを通じてアパレルを買う人は珍しくない。中国でも、商品購入の前に微信(WeChat)でマーチャントに質問の雨を降らせた後購入に至ることが多い。インドの急成長するデジタルコマースでも同様の状況があるという。

ユーザー行動のなかでペイメントとコミュニケーションアプリは常に近い位置にあり、巨大なユーザー数を誇るFacebookとしては手を伸ばさずにはいられない領域だろう。しかも、FacebookのCFOは一年以上前から広告収益の増加が逓減すると指摘している。そのためコンテンツを動画に入れ替えて、より単価の高い動画広告を売るというビジネス方針が続いている。金融方面のビジネス開発は必要に迫られている。

新興国で模索されるデジタルウォレット

FacebookのQ3によると、MAUは世界中に分布しており、特に伸びているのはアジアとアフリカの新興国で、モバイルを手にした人がそのままユーザーになる。一方、欧米圏は飽和している。

Facebookはテンセントの微信包銭のようなメッセージングアプリとデジタルウォレットの合体を模索している。その実験の場が、国家でキャッシュレスを掲げているインドである。インド政府は先見の明があり(実現能力はわからないが)、同国を多数派であるUnbanked(銀行なしの人々)に銀行口座を作らせるよりもデジタルウォレットを渡すほうが速いということに気づいている。

Google、Amazonもインド政府が指定する標準化されたゲートウェイを活用し、デジタルウォレット事業を進めている。だが、この国で一番有望なデジタルウォレットはアリババが筆頭株主のPaytmである。

この記事で深い検討を行ったので深入りは避けよう(インドのデジタル決済の状況が一発でつかめる素晴らしい記事!)。

金融アクセスのない人々に渡される、インドの最先端デジタル決済

この領域では中国のテックジャイアントが米国のそれに先行している。技術的な観点からみても、Alipayは世界最大級のECプラットフォームのタオバオ(淘宝網)で生じたり、ウォレット間の送金で起きる超多量のトランザクションをさばく素晴らしいサービス。微信包銭はAlipayよりも小売店で生じる小さい支払いに利用される傾向があり、細かいトランザクションを一気にさばいておりこちらもモンスターだ。そして両者の取引額を足すと日本のGDPを凌いでいる。

私のこの記事「デジタル決済革命はアジアで起きている:先進国凌ぐ中印」はスタートアップ/フィンテック/金融界隈でとても読まれた。

法定通貨のウォレットvs暗号通貨のウォレット

ただしデジタルウォレットが成功するには金融機関との密な協力が必要だ。口座とウォレットの間の送金に対し、金融機関が高い手数料を課すとすれば、金融機関は規制当局に代わってデジタルウォレット事業者に「課税」できるわけであり、事業は成り立たなくなるのだ。中国ではこの部分がうまく行っていて(おそらく辛い市民と伊藤独裁のおかげだ)、アリババとテンセントが独占したのも消費者としては好材料だった。

そもそも「機能」から考えると、銀行口座は必要がない。セキュアなデジタルウォレットがあれば、タックスが課されるお金の置き場所は必要ない。ただただ法律がそう命じているだけだが、機能としては非効率的だ。

注意深い人ならこういうことに気づくだろう。「デジタルデータ上のフィアットカレンシー(法定通貨)をウォレット間でやり取りしているなら、デジタルネイティブなカレンシーをウォレット間でやり取りすればいいのではないか。法定通貨や金融機関という制度、システムにまつわるコストをスキップできるのではないか」と。暗号通貨の熱狂の一部はこういう部分がある。ながらく封印されていた金融に関する個人や企業の力が拡張されるだろう。資本主義のコストと考えられていたあらゆるバイパスから関門がなくなり、往来が自由になる。

Facebookが暗号通貨の採用を考えるのも、この理由と考えられる。Facebookのメッセージング部門長のDavid Marcusは元Paypal プレジデントであり、最近世界最大級取引所・暗号通貨ウォレットである、Coinbaseの取締役に就任した。

Facebook Messaging VP David Marcus joins Coinbase board

Coinbaseが手を貸せば、Facebook上の商取引を暗号通貨で行うことが可能になる。グローバルなお金の送金に関しては暗号通貨は国際金融を凌ぐので、バンコクの少年
がFacebook上に載せたコンテンツに対して、トロントの女性がライトコイン(現状、かなり安い、速い)で支払うことができるかもしれない。

Ethereumプラットフォームには「Steemit」というのがあり、コンテンツに対して報酬を支払う仕組みでできている。日本のALISもこれを大いに参考にしたようだ。だが、コンテンツプラットフォームを広告以外で回す術に関しては、まだ答えは出ていない、と言えるだろう。

あるいは微信包銭のように小売店で使う、暗号通貨ウォレットをMessengerやWhatsAppにくっつけることを検討するのだろうか。現状の暗号通貨はこのような頻繁で細かいトランザクションが向いていない。パブリックブロックチェーンはそんなに速くないのだ。プライベートブロックチェーンは分からないが……。

今後のビットコインの開発では、Coinbaseのような事業者が細やかなトランザクションをまとめ上げるような役割になる。これは手数料減少や送金高速化と主にもたらされる予定であり、SegWitというその必要条件となる技術をデプロイ(展開)している事業者が有利になりそうだ。そして今後はFacebookのような大型プレイヤーとクリプト界隈が交わる機会は出てくることになり、よりさまざまなユースケースの検討がされるだろう。

参考

Photo by Brian Solis(CC)

 

コメントを残す