今週は楽天が携帯キャリア事業へ新規参入を表明した。これにより楽天だけでなくキャリア3社の株価が急落した。「楽天経済圏」の拡大を目指しての買収だろう。11月の決算発表会では三木谷浩史会長兼社長は「これまでは楽天市場を中心にしたマーケット(EC=ネット通販)ビジネスの会社だったが、これからは会員情報を中心に据えたデータビジネスの会社になる」と語っていたという。

基地局設置など設備投資に2019年のサービス開始時で2000億円、25年には最大6000億円と巨額の投資負担が発生すると楽天は見積もっている。

楽天のキャリア事業参入の障壁に関しては、日経ITpro榊原 康氏の記事が明快な説明をしている。当面はエリアが狭く、通信速度も遅いなかでの競争であり、投資回収には長い時間を要する。兵站網が伸び切ったナポレオンのロシア遠征のような戦いになりうる。ただし、楽天もこの点は了承した上での参入だったはずだ。

もっとも、ここまで説明してきたことは楽天も十分に分かっている。だからこそ、今回の新規参入は興味深い。総務省が現状の「大手3社寡占」を問題視し、4社体制でとにかく競争を促進したいと考えるならば、設備共有やローミング負担軽減などの支援策を打ち出す可能性もある。そして何よりも、これだけの逆境をはねのける楽天の「秘策」に注目したい。

楽天データマーケティングの「ネット広告やテレビCMと、ECや店頭での購買をすべてIDでつなげて広告効果を把握・分析しようという試み」への考察は以下の記事で行った。ここで提示した5つの課題のうちいくつかはキャリア事業が拡大することで解決する可能性が高い。日本の規制当局の出方次第だが、キャリアは「すべてを知れる」プレイヤーだ。ここに金融事業などのデータが融合すれば、三木谷氏の言うデータ企業になることは叶うだろう。

楽天の広告会社化 5つの課題 : Amazonに対抗

米国や欧州でキャリアがネットサービスに展開する例は多数あり、データ資産、顧客基盤をうまく活用しようとしている。Google、Facebook規模のプレイヤーもキャリアを目指す動きを国内外で見せているが、実現していない。

「隣の芝」は間違いなく青い

楽天の今回の試みは、Yahoo JAPANのブランドによるビジネスからキャリアに転身したソフトバンクの動きを踏襲した形になるが、寡占市場でまるまるとキャッシュを溜め込んだドコモ、KDDIと、常に資金調達の圧力さらされているソフトバンクとどう競争していくのか。

楽天が相対しているAmazonはeコマースを2社の市場にとどめておく気はなさそうだ。Amazonのプライム会員に多様かつ大量のベネフィットを提供する戦略は、常に競合を圧迫する。

“Amazon Everywhere” : 帝国はあなたの購買を完全制覇する

これは「戦争」だ。Amazonは極めて多様なサービスを提供しており、楽天も同様だ。Amazonの持たないピースこそが、人々がAmazon Prime会員ではなく楽天IDを選ぶ理由になるだろう。低価格の通信と買収したフリーテルの低価格帯のスマホ、楽天カードなどで囲い込めればAmazonが圧迫できない城塞を築いたことになる。Amazonらとの死闘を繰り広げる傍ら、通信業界の芝は相当青く見えたに違いない。

楽天のQ3を参考にすると、同社の国内電子商取引(EC)事業はじわじわ伸びているが、成長性は鈍化しているとみていいだろう(図はGMV)。

だから外側に広がっていく構想は当たり前だ。楽天はグローバル展開に力を注いだ時期があったが、いまは国内のより戦いやすいプレイグラウンドを選んだ。日本市場は依然として魅力的だ。

ユーザーとしては歓迎すべき状況だ。日本の通信費は寡占市場のせいで決して安くないし、端末と通信をセットにして買い手をロックインする仕組みは、余りにもユーザーを軽ろんじすぎている。

コメント

さて、ここはAxionなので予測をしてみよう。

ワイアレスネットワークはやがて水のようになる。コネクティビティの価格が落ちていくなかで、長期的にはキャリアは収益構造を維持できないと私は考えている。VerizonなどがGoogleの近接地帯であるAOLやYahooを買収するのは、GoogleやFacebookらのようなプレイヤーを脅かしておいたり、垂直の事業構造を築いておかないと、彼らがワイヤレスネットワークの元売りというビジネスモデルをひっくり返そうと試行錯誤をしているのを指を加えて待っているだけになってしまう。

長期的にはコネクティビティを提供するテクノロジーが発展し、ワイヤレスネットワークは水のように安くなっていく可能性がある。

Project Loon(Google)

ProJect Fi(Google)

Connectivity Lab(Facebook)

One Web(Softbank 出資)

通信キャリア事業は絵に描いたような規制産業であり、参入して一定の地位を確保すれば、かなり美味しいビジネスに育つという見立ては短期的には正しい。しかし中長期的には溶けていく市場であるし、そうならないといけない。

通信キャリアのビジネスモデルや彼らに働くインセンティブは、インターネットをユビキタスなものにしていつでもどこでも接続されたハードウェアを使いAIとソフトウェアの力を享受できるようにするというIoT/AIの世界の大きな障害だ。楽天の参入は、硬直化した事業者の態度を大きく変える可能性があり、流動性をもたらすだろう。とても歓迎されるべきものだ。

ただし、日本最大級のインターネット企業の投資先が最先端領域ではなく、アンテナを立てることに費やされるのは、2000年代のネットバブルの感覚なのかな、日本製テック企業の現状の限界なのかな、と私は感じてしまう。ジェフ・ベゾスやラリー・ページ、イーロン・マスク、マーク・アンドリーセンなどの当時の生き残りは、いまも新しいビジョンをみているし、孫正義も最近若返ったというのに。これではグローバルのテック企業が行うムーンショットたちを楽しみに眺めているしかないんやね、という感じ。


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投稿者: Takushi Yoshida

起業家&デジタルビジネスアナリスト。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。ジャカルタで政治経済記者。APEC、ASEAN首脳会議でTPP、ASEAN+3などの地域経済統合をリサーチ。帰国後、米デジタルマーケティングメディアDIGIDAY[日本版]立上げ参画。2017年10月テックビジネス戦略メディアAxionを創業。

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