楽天の広告会社化 5つの課題 : Amazonに対抗

この東洋経済の記事「楽天が企てる「巨大広告会社」への変身計画」で楽天データマーケティングのCEOの有馬誠氏が「ネット広告やテレビCMと、ECや店頭での購買をすべてIDでつなげて広告効果を把握・分析しようという試み」の一端を説明している。「新会社では、多額の広告予算を持つ、消費財や食品などの大手企業に向けた広告商品の企画や営業を本格化させる」「楽天は約70ものネットサービスを展開していて、日本で屈指のアクセス数を誇るウェブ媒体といえる。広告の売上高を増やせるポテンシャルは大きい」。

この記事をより広告業界で有用な情報にしたいと思い、コメントを加えたい。

楽天の試みは米国では数十歩先にすでに実践されている。Facebookがオラクル傘下のDataLogixやニールセンと組んでこの試みの先端を進んでいる。私もたくさん記事を書いて、業界でのこういう試みの実践に一定の貢献をしてきたので、ぜひ参照してほしい。

楽天の言う「購買データ」にはトランザクションデータも含まれており、他の経済圏で楽天のクレカを活用している場合の購買データもとれる。他にも種々の金融関連のデータを保持しており、これがマーケティングに役立つかは分からないが、「広がり」がある。消費財メーカーの広告が、楽天内のモールでのコンバージョンを促す形の広告には、高いCVRを示すことができ、出稿をする消費財メーカーのマーケティング担当者としては手離し難いパイになる可能性がある。

このクイックな分析は楽天の広告会社化をめぐって5つの観点で行われている。この4点に関して楽天がうまくやると、同社は新しい広告プレイヤーとして台頭するかもしれないと予測する。

1. 経済圏というデータ分断

日本では個人情報保護法や「経済圏」によるデータ断片化が厳しい要因だ。今回の試みもまた楽天経済圏におけるデータマーケティングの域を出られるかが、ポイントになるだろう。さまざまな小売店を訪れると、異なるポイントカードの利用を求められるし、経済圏ごとに人々の「傾向」は異なるはずなので、全体を統合できるソリューションを築けるわけではないだろう。

スーパーマーケット、コンビニ、ドラッグストアはブランドが所属する経済圏ごとに仕入れ商品が大きく異なり、その結果得られるデータ自体にも強くバイアスがかかることもしばしばだ。だから楽天のデータが世界のすべてを語れるわけではない。

2. デジタル広告の寡占はかわし難い

楽天の広告事業の課題は独自のデジタル広告配信システム、特にDSPの力がまだ不十分と考えられることだ。豊富なデータがあればDSPがうまく働きやすいのは確かだが、アドテク特有の強烈な情報の不透明性のなかで、いいパフォーマンスを出すのはさまざまな工夫を凝らす必要がある。

仮に楽天が独自のデータの強みを活かしてデジタル広告市場で巨大化したいと考えるならば、出稿先を自社メディアの外に拡大する必要がある。スケールがないと広告事業はもうからない。デジタル広告業界の巨人のプラットフォームをかわしながらスケールを確保するためには、ディスプレイ広告の網を広げる必要がある。しかし、Facebookも「ウェブ上の広告(=ディスプレイ広告)」で同様の戦いをGoogleに対し挑んだが、Microsoftから買収したアドサーバー企業は、Googleのエコシステムに跳ね返され、現状はトラッキングシステムの一部に役割変更されており、実質上の撤退を余儀なくされた。

では、なぜ後発のAmazonが北米でディスプレイ広告への参入で一定の成功を収めつつあるか。

  • 広告主がROIに辛い(Amazonのソリューションは購買まで見える)
  • eコマースがAmazon1強状態
  • DSPが残酷なまでの淘汰時期を迎えている中で、eコマースというユニークなパイをもつ
  • Amazonはサプライサイド側でもアンチGoogleのソリューションを提供し、Googleに圧迫されていたステークホルダーと仲がいい

元Googleの有馬氏はこのような部分は熟知しているはずだが、手強い相手との競合をどうさばくだろうか。例えばYahoo Japanの在庫を楽天のDSPで買えるというのは少し想像しづらい。となるとGoogle傘下の配信網であるダブルクリックのお世話になるのだろうか。

だから事業の中核部分が測定サービスに留まる可能性がある。Facebookの場合は、WPPがcomScoreの投資家になったこととなどを背景に、ニールセンとの連合が進んで、テレビ+デジタルの仕組みができて広告測定を行うゲームを開始したが、楽天はテレビ周辺のデータを電通と組むことでそれを賄うことになる。合弁会社という機微がこのフィールドに働く可能性は否定出来ないだろう。

3. 日本特有のディスプレイ広告事情

しかし、バイヤーである日本の広告主・代理店はディスプレイ広告を余り好まないし、ディスプレイ広告などのデジタル広告周辺の値付けを富裕国では目を疑うほどの低いレベルに据え置いてきた経緯がある。このため、デジタル業界関連のシステムの発達は、金融業界のエンジニア人材を迎え入れた米国ほどではなく「独特な」商慣習で動いている。

業界にいる主要なマーケティングプレイヤーのマーケティング人材の多数派からは「ディスプレイ広告」という言葉からいい反応を得るのはときに困難かもしれない。結果、日本の対アナログ比でみたデジタル広告市場シェアは諸外国と比較するとかなり小さい。

4.アリババモデルの光と影

楽天がしばしば経営戦略の中で参考にしているような感じのアリババは、広告事業の収益でバイドゥやテンセントをしのいでいるが、こういう背景がある。同社が展開する「淘宝網」のなかで、マーチャントは赤字覚悟の価格競争を行っている。マーチャントはサイト・アプリ内検索で上位に掲出されたり、トップページにディスプレイ広告が載って、顧客のパイをまとめあげて、競合を蹴落とさないと利益を生めないので、実質上、広告出稿はマーチャントに対するタックスとして機能している。

これはダウンサイドも大きい。収益とマーチャントのロイヤルティを常に天秤にかけ続けることになる。淘宝網のなかでがっちりと収益を確保できているマーチャントは少数派で、一定の割合のプレイヤーは疲弊して退場し、また新しいプレイヤーが現れるのを繰り返している。ここにアリババ並みのタックスをかけるのは日本では難しいかもしれない。

5. Amazonの攻勢と表裏一体

Amazonの広告事業拡大に触発されたようにみえ、Amazonのコマース部門の日本市場での攻勢と、同社にとって日本が広告部門の注力地域に入っていることと表裏一体だと考えられる。マーケティング関連の商品で劣勢に置かれることは、本体のECでも厳しい戦いを強いられることと関係しやすい。楽天の戦い方をみて、あらためてAmazonの他者殲滅型の戦略の効果を知ることになる。

こちらの記事を読んでいただきたい。

Eyecatch Photo via Rakuten Media Resource

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