ディズニーは昨年末、21世紀フォックスの名門映画スタジオ、テレビ制作会社、ケーブルチャンネル、海外資産を含む資産の大半を買収すると発表しました。524億ドル(約6兆円)にものぼるこの買収は、メディア史上最大級の規模です。

さて、今回の買収も経済学の視点から辿ってみましょう。

買収の論理

ほとんどの買収には、いわゆる「シナジー(相乗効果)」があります。2つの企業が一緒になって、独立したよりも低コストで収益を上げることができるという考えです。ほとんどの経営陣は、重複する業務にあたる労働者の数を減らすことで大幅なコスト削減を約束します。21世紀フォックスとディズニーの事業はしっかりとオーバーラップしてます。

それでも確かに説得力のある議論ではありません。買収にも大きなコストがかかります。買収資産の価格には、通常、コスト削減の結果をカバーする以上の保険料が含まれています。追加的な正当化がなければ、費用節約の議論は、価値創造ではなく、経営帝国構築の正当性となります。

実際にはこれは必ずしも優れた「理由」ではありません。コスト削減論議はしばしば競争を減らす買収のためのスケープゴートとして語られます。

GoogleとYouTube、FacebookとInstagram、またはディズニーのCapital Cities(ESPNを含む)の買収を考えてみましょう。これらの買収は買収者をはるかに良い立場に導きました。

買収の論理2

Capital Citiesの買収を振り返りましょう。この1995年の買収は、当時は史上2番目に大きな買収であり、ディズニーはケーブルテレビ時代を支配しました。当時、ケーブルテレビ網は、消費者が可能な限り多くの家庭内エンターテイメントを手に入れるための唯一の方法でした。これはディストリビューターが消費者に多くの負担を求めることができることを意味しました。

このバリューチェーンにおける実際の交渉は、コンテンツ制作者とディストリビューターの間で行われています。ここでCapital Citiesとディズニーは強力なコンビネーションでした。

第1に、ESPNは消費者にとって最も不可欠なケーブルチャンネルとしての地位を確立しており、他のどのチャンネルよりも数倍高い料金を請求することができました。

第2に、ディズニーはFCCが独自のコンテンツをブロードキャストネットワークに関する規制を緩和したばかりのときにABCにコンテンツを供給することができました。買収せずして流通網を拡大したのです。

第3にディズニーは「バンドルのなかにバンドル」を作りました。ディストリビューターは、ESPNだけでなく、ディズニーチャンネル、A&E、ライフタイム、それ以外の付属チャンネルにも対価を支払う必要がありました。ディズニーの利益にESPNがどれだけ寄与したか。バンドル化によってもたらされるコンテンツ料の膨張領域を足さないといけません。

ここ数年のメディア業界で支配的な話としては、このケーブルテレビのモデルが崩壊したことです。そのCapital Citiesの買収で同社に入社したディズニーのCEO、Bob Iger氏は、2015年8月に、ディズニーの収益の45%、利益の68%を生み出していたESPNと同社の他のネットワークが、顧客を失っていることを認めざるを得なくなったのです。

テレビコンテンツ流通の変化

ディズニーはコンテンツ流通の変化に気づいていませんでした。

2012年にディズニーはNetflixとの契約を締結しましたが、Netflixは単にディズニーのコンテンツの顧客というだけではなく、ディズニーにとってはるかに収益性の高い顧客であるケーブルテレビのライバルでもあったのです。そして、その後5年間で、ケーブルテレビの顧客が解約を始め、新規に契約することがなくなりました。Netflixらはディズニーらのコンテンツを利用して顧客基盤を固めてしまいました。

Netflixは既存の製品(DVD)より優れたユーザーエクスペリエンスを顧客に提供することから始め、新しい種類の供給(ストリーミングコンテンツ)を獲得し、より多くの顧客とより多くのプロバイダーを獲得し、最終的にこれらの顧客を活用して供給をモジュール化しました。ストリーミングサービスの収益によってコンテンツの量が増やせるサイクルを確立しました。

加えて、Netflixが独自の番組制作に移行したことは、単にストリーミング会社がケーブルテレビの完全な競争相手であるということだけではなく、差別化されたコンテンツの競争相手になったことを意味します。これにより、Netflixは、ディズニーのようなコンテンツサプライヤーに対して、これまでのケーブル会社に比べてはるかに優れています。この新しい構造の中で、ディズニーは差別化されたコンテンツに対する対価を獲得することが難しくなってしまいました。

ネットフリックスと同じ事業構造に

ディズニーがコモディティ化を回避する唯一の方法は、それ自体が垂直になり、顧客と直接つながることです。つまり、今後のストリーミングサービス展開、Netflixからのコンテンツの削除、そして今回の買収劇はひとつのセットでないと機能しません。

 

Netflixはその垂直モデルに忠実です。しかし最終的な結果は非常によく似ています。ライセンシング取引で強化された、独占的なコンテンツで顧客を引き寄せて保持する垂直統合ストリーミングサービスです。

 

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ディズニーが成功すれば、できるだけ多くのコンテンツ作品への投資を前提とした水平型のコンテンツ会社から、顧客がコンテンツを視聴するかわりに対価を取ることまでを面倒をみる垂直型の企業になると言えます。 Netflixが実証しているように、ユーザベースを所有しているということは、世界中にそのモデルを拡張できることを意味します。

課題はディズニーは19年にストリーミングサーヴィスを立ち上げる予定だということです。これは余りにも遅すぎるでしょう。その間にネットフリックスはコンテンツのライナップと制作能力を改善し、米国における値上げにより収益性が向上させながら、世界中でユーザーベースを拡大しているでしょう。

投稿者: Takushi Yoshida

起業家&デジタルビジネスアナリスト。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。ジャカルタで政治経済記者。APEC、ASEAN首脳会議でTPP、ASEAN+3などの地域経済統合をリサーチ。帰国後、米デジタルマーケティングメディアDIGIDAY[日本版]立上げ参画。2017年10月テックビジネス戦略メディアAxionを創業。

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