IoTは都市も変える すべてがネット接続されソフトウェア化するスマートシティ 

予測

  • 家、交通、都市と私たちの生活をめぐるあらゆるものがコネクティッド(ネット接続された)になる。都市開発の仕方がシリコンバレー流のプロダクト開発の方法に変化する。人々は「ハードウェア」「アプリ」という形で都市に触れるようになる

論拠

主にAmazon EchoとGoogle Homeの間で繰り広げられているスマートスピーカー競争にはスマートアシスタントの競争という側面がある。このアシスタントはIoT時代の支配的な課題解決手段に成長する可能性があるため、極めて重要性が高い領域だ。スマートスピーカーは「家」という人々(People)がとても長くプライベートな時間を過ごす場所で、今までとは異なる形で人々と接点を作る機会がある。もともとはスマートスピーカーはモバイル、モバイルOSなど、ひっそりとデバイスに強い関心示していたAmazonの数多あるデバイス参入戦略の一つだったかもしれない。

しかし、2014年後半のAmazon Echoリリースから2016年、2017年と人々がついにこの奇妙な形をしたデバイスに慣れ始めたようだ。AmazonはEchoをとっかかりにAmazon Alexaのパートナーシップをスマートホームや自動車(ゆくゆくは自動運転車になるだろう)に広げた。今年1月のCESはそれを強く印象づけており、AmazonがEchoをテコにしてインターフェイスとデータを握り、AIプラットフォームを築いてしまうのではないか、と想像するのが難しくなかったのだ。

AI開発で優勢と考えられるGoogleはスマートホーム、自動運転車、エッジにいるアシスタント、そしてクラウドにいる強力なAIケイパビリティなどを組み合わせて、より高次なスマートシティを生み出そうとしていると考えられる。Googleは有り余るキャッシュでそういう「買い物」をしてきた。

例えば、Googleは昨年9月にUrban Engines買収を発表している。Urban Enginesは2014年にGoogleのマネジメント層だったエンジニア2人が創業。都市交通情報のリアルタイム分析を基に、最適な経路を割り出せるサービスを開発。リアルタイムで交通システムの状況を把握し、個々人に対しユニークな最適経路を提示することを目指していた。Urban Enginesがこれを実現するには世界のモバイルの8割に載るAndroidGoogle Mapをもち、欧州以外の政府とは交渉能力の高いGoogleとの合流が合理的な判断に違いない。

東京、上海、サンパウロ、ムンバイなどの超巨大グローバルシティの中を走る大量の自動車の動きを最適化するだけでも量子コンピューティングが提供する超膨大な演算能力が必要になるはずだ。加えて、個々に合理的な判断を下せるエッジのAIが、総体としての都市交通システムとユーザーの移動時間の最適化をはじき出すとは限らない。

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Via Urban Engines / Youtube

 

Googleのように世界を網羅するデータセンターを抱え、AIケイパビリティへの投資を誰よりもしているプレイヤーの力が必要だと考えられる。例えばGoogleの自動運転者Waymoが成功すれば、都市内を走る自動車の数は少なくでき、最適化問題をかなり簡単にする、はずである。あるいは、Googleが取得しているユーザーの位置情報・行動データなどを組み合わせていくと、素晴らしい解決策への手がかりがあるかもしれない。

住宅と都市というハードウェア

住宅と都市というハードウェア間の関係はまだ鮮明なビジョンが見えていない。GoogleサーモスタットのNestを2014年に32億ドルで買収している。鳴り物入りのNestはGoogleの企業文化になじまなかったと噂され、思ったほどの発展を遂げず、創業者のTony Fadellは昨年Nestを離れている。Google Homeは現状Nestとインテグレートされていない。AmazonはNestの競合であるEcobeeと協業しており、EcobeeはAlexaを組み込んだサーモスタットと監視カメラのシステムの製造を開始しており、この分野でも追走の手を緩めていない。

Alphabet傘下のSidewalk Labsは今年5月、トロント市政府からリクエストを受けて市中心部12エーカーの開発計画の提案をしたと言われる[Bloomberg]トロントは急速都市開発が進んでおり、米国からの投資を必要としている。米大統領Donald Trumpが移民に厳しい態度を敷いているため、ソフトウェアエンジニアなどがカナダに向かうケースも出ている。テクノロジーの中心地になる潜在性もある。異端研究の少人数グループを率いて、スーパーコンピューターでの実行に対応したアルゴリズムの並列化に成功したニューラルネットワークを開発し、今のAIブームの火を点けたGeoffrey Hintonはトロント大学に籍を置いていた(現Google)。

そして今回、トロント市東部のウォーターフロントを市の事業会社とSidewalk Labsが行うことを発表した。

 

創業当初のビジョンを変えていなければ、Nestは家に取り付けられたセンサー群から家主の特性を「理解」し、家主の生活を豊かにする家を提供することを狙っている。Nestはセキュリティカメラを製造するDropcamを5億5000万ドルで買収し、米国の郊外に在住する中間層以上の住宅に必須のサーモスタットとセキュリティカメラというパーツを同社のスマートホームの陣容に加えている。

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Via Nest

仮に人々がNestのセキュリティカメラを利用するとすれば、GoogleはAIケイパビリティを活かして動画から得られる情報からより家のパフォーマンスを上げることができるだろう。Googleは動画内に登場したものをディスクリプト、タグ付けする動画認識技術を今年のGoogle Cloud Nextで発表している。今後は動画の中にいる人間のコンテクストがさまざまなセンサーデータを混ぜ合わすことでわかるかもしれない。活用の仕方として例えば、複数のベッドルームで別々に家主が眠っているとしたら、熟睡に適した室内温度を調整する。あるいは家主が普段よりも頻繁に家の中を動き回り、Google Homeとのやりとりから怒りが感じ取れるときには、リラックスを促す背景音楽を流すというようなことだ。

世界的に都市居住者の割合が拡大しており、都市を発達させることは急務だ。世界的に、都市部の人口が農村部に比べて増加しており、2014年現在、世界人口の54%が都市部に居住している。1950年にはその割合は30%であり、2050年には66%まで増加すると予測されている。世界最大の都市は東京(人口3,800万人)。東京の次に、デリー、上海、メキシコシティ、ムンバイ、サンパウロが続く。2030年、東京は人口3700万人で世界一を維持するとされているが、それまでにデリーの人口も3600万人まで増加することが予測される。※UN “World Urbanization Prospects 2014”

Google共同創業者のLarry Pageは早い段階からスマートシティ構想に関心を抱いていたと言われている。昨年からSidewalk Labは、シリコンバレーのテクノロジー企業を急激に成長させた手法を利用し、インターネット起点の都市を開発することを公に語り始めた。CEOのDan DoctoroffはPageの関心はゾーニングの抜本改善やハウジングコストを削減することだと語っている。Sidewalk Labはマイクロシティや大規模街区開発に興味があり、それにより同社のアイデアを示したい考えという。Sidewalk Labはすでにニューヨークでは市政府との事業で街中にキオスクを設置しフリーの超高速WiFiを提供している。

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Via Link NY

ニューヨーク住民の36%は自宅でのコネクティビティがない。コネクティビティは人権だという考えに立脚している。※How tech innovations make life in cities easier | Eric Baczuk, SideWalk Labs

ソフトウェアとして都市を考える

Anand BabuとCraig Nevill-Manningは「デジタルプラットフォームシティ」というコンセプトを提示したことがある(Google Tech Talk, 2016年2月)。都市の物質的な側面をハードウェア(Hardware)ととらえ、交通、大気状況、位置などを入力(Input)、アプリ、信号機、ドアロックなどを出力とする。仕組みの中心(Kernel)にコネクティビティ、許認可、交通コントロールを据える。4Dマップ、分析・シミュレーション、需要マネジメントなどをサービスとし、交通や住民サービス、市行政などをアプリケーション(Apps)と捉えている。都市をアプリケーション、サービス、ハードウェアとして捉えて、人々を中心に据えた構築を行うことを提唱している。これは都市開発において極めて新しいマインドセットだ。

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Via YouTube/ GoogleTechTalks

これは都市を「プロダクト」としてとらえようとする試みだ。都市開発はつまりプロダクト開発という形に変化する。シリコンバレーが成功したイノベーションの方法を都市開発にも活用する。人々から見た場合、都市はハードウェアとアプリという形でとても触りやすく、エンゲージしやすいものになる。ハードウェアやアプリはユーザー中心の哲学のもとリアルタイムで設計・改善されていく。

アシスタントは人と都市の関係をより円滑にできるかもしれない。人々はアプリを直接使うのではなくアシスタントに要望を伝えると、アシスタントが煩雑な作業を代替してくれるはずだ。アシスタントが裏でアプリと連携して自動運転車を呼んでくれたり、さまざまな煩雑な行政上の手続きをアシスタントとの会話だけで済ませたり、最適な経路をリアルタイムで教えてくれたりするだろう。

結論

筆者はインドネシアの首都ジャカルタで5年間過ごした。周囲の地域を含めたジャカルタ都市圏は4000万人規模の人口がいると言われていた。そこには行政府に届け出を行わない低所得者層は含まれていなかった。都市は世界最悪レベルと呼ばれる交通渋滞を抱え、各種の都市インフラの整備が急速な経済成長にまったく追いついていなかった。中央・地方政府の腐敗はこの状況に拍車をかけていたのは明白であり、シンガポールに別宅を構える富裕層があふれる中、都市が生み出すさまざまな要因と相関性のある貧困に、かなりの割合の住民が苦しんでいた。

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2008年にアメリカのデトロイトを訪れたときも、強烈なドーナツ化・探りゲーションと市中心部の治安状況の極めて悪い状況を知った。もし、紹介したマインドセットで都市開発を行えたら、アメリカの都市だけでなく、東京、そしてジャカルタ、ムンバイ、サンパウロのような新興国メトロポリスの課題を解決できると期待している。

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